
渋谷区教育委員会事務局 教育DX政策推進特命部長 兼 参事 教育政策課長(統括課長) 事務取扱
篠原 保男氏
データの活用なども含めて、社会全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)加速の必要性が叫ばれるなか、これからの学校教育を支える基盤において、ICT はもはや必要不可欠なものとなりつつある。渋谷区では2017年9月から、全国の自治体に先駆け、渋谷区ICT教育システム「渋谷区モデル」として児童生徒一人1台のタブレット端末環境の導入を推進してきた。「渋谷区モデル」のスタートは、文部科学省が「GIGAスクール構想」を打ち出す2年前のことだ。ICT教育に対する渋谷区の先見性がうかがえる。2020年にはICT教育基盤を刷新し、ICT機器を活用した「すべての子供たちの可能性を引き出す学び」を根付かせていった。
そして2020年、「子供たち一人ひとりのウェルビーイング(幸せ・心の豊かさ)を向上させるために、どうデータ活用すべきか」という議論が持ち上がる。渋谷区教育委員会事務局 教育DX政策推進特命部長 篠原 保男氏は、次のように当時を振り返る。
「教育現場におけるICTの実践で培った知見やノウハウをベースに、次のステップとして教育データ活用の検討に入りました」と、篠原氏は話し、こう続ける。
「渋谷区が目指すのは、『子ども一人ひとりが安心して、自分の個性を伸ばし、未来をよりよく生きるための力を身に付けることができる学校づくり』です。それを実現するためにはどうデータを活用すればよいか。日本に先行事例がほとんどなく、どのようなプロセスで構築すればよいのか悩みました。そこで、2020年度に教育政策課、教育委員会の行政系・教育系職員、区長部局のICT部門が参加し、教育データ活用に向けてワークショップを開催しました。海外事例に精通しているマイクロソフトにファシリテーションを行ってもらいました」
ワークショップでは、ビジョンや目的の設定から着手している。篠原氏は、「『やみくもにデータを集めて表示するだけでは失敗する』『誰に対してどのようにデータを見せるのか、目的から落とし込んでいく』という、その後の羅針盤ともなる考え方を整理できたことは、とても参考になりました。目的やビジョンを明確にできたおかげで、方向性がぶれることなくプロジェクトを進めていくことができたと思います」と話す。
この目的を実現すべく、渋谷区では児童生徒の生活記録(ライフログ)を中心としたダッシュボード開発に着手した。「教育ダッシュボードは、日々児童生徒と向き合う教員の経験や勘を置き換えるものではありません。これまでと同様に、子供たちとの対話を重視しつつ、教員が子供たちの興味や関心、悩みなどをより丁寧に見取ることができるよう、補助的なツールとしての位置づけです」と篠原氏は強調する。
教員が子供たちとの1on1(1対1で行う対話)における時間の創出と密度向上を図るために、必要なデータは何か。2021年度に入り、データの洗い出し、発生頻度、優先順位付け、取得難易度などの検討を進めつつ、2021年9月にワークショップのメンバーを中心にPoC(概念実証)を実施した。PoCの技術支援は、データ活用をベースに企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するジールが担当した。